大学の学費はこれからも値上げラッシュが続く

本日のYahoo!ニュース記事(毎日新聞)によれば、デフレ進行下の昨今でも大学の学費は上昇の一途を辿っており、家計負担が増大していることが指摘されています。

我が家でも3人の子を持つ身として教育費の準備は頭の痛い話ですが、近い将来、大学の学費はもっと上がるんではないかというのが、一大学職員としての意見です。

 

本音を言えば大学は学費を値上げしたい

ここ最近の主に上(文部科学省)からの大学改革要請によって、大学では支出が増加しています

効率の良い大教室での授業はナンセンスとされ、少人数のアクティブラーニングが良しとされるようになり、必要な教員数が増え、また教室の改修やラーニングコモンズの設置などを余儀なくされました。

また、多様な学生が入学するようになったことで、ライティングセンター(文書の書き方を教える)の設置、障がい学生のサポート、メンタルヘルスのケア、就職のきめ細やかな支援など、これまで以上に個々の学生の状況に応じたサービスが求められるようになっています。

これらは多額の費用が掛かります。

多くの大学は外部委託などで何とかやりくりしていると思いますが、そろそろ経費削減も限界に近付いており、できればベースとなる授業料を上げたいなぁと思うのは当然かと思います。

 

既に学費値上げをしても良いという雰囲気が醸成されつつある

記事中では、東京工業大学や東京芸術大学などの国立大学の値上げに他大学が追随するだろうとの展望を述べられています。東京芸術大学は今年度から一気に20%もの学費値上げしたことで話題になりましたね。

学費の値上げについては、奨学金(実際は教育ローンですが…)の充実や、「教育に出費を惜しまない」文化がこれを支えている旨述べられており、それはそれで正しい指摘だと思います。

特に、子どもが減っても玩具業界の市場規模が一定という話にあるように、少子化=一人当たりの教育費増大となることは予想できるところです。

ただ、個人的にはそれよりも「周りが上げてるからうちも上げていんじゃね?」という状況になっていることが要因なが気がします。

 

志願者減!? みんなで上げれば怖くない

最近では主に有名私立大学を中心に連続した学費値上げが実施されているように思いますが、今後はこれがその下の中堅層に波及することが考えられます。

授業料の値上げによって懸念されるのは志願者の減少です。多くの大学はこれを警戒しています。しかし、4年間の学費が十数万~数十万違うだけで、志望校ランクを落とす学生がどれだけいるでしょうか。親としても、そのくらいの差ならできるだけ良い(という評判の)大学に行ってほしいと思うものです。

すべての学生が有名私立大学に入学できる訳ではないことを考えると、有名私立大学の学費値上げが一巡したら、今度はその下の中堅層が相対的に安くなった学費を引き上げてくるでしょう。更に下位層の大学より高くなったとしても、志願者の減少は限定的になると予想できるからです。

商品価格を他社と比較した上で設定するのはどの業界もあると思いますが、大学は横並びの文化が他業界以上に強いです。間違いなく、数年後に中規模大学の授業料値上げラッシュが起こると予想します。

 

大学の数を少なくすればよいという意見について

記事中では、授業料の値上げについて、国の私学助成が限られていること、それによって私立大学が強い学納金依存の財務体質であることを挙げています。

これに対し、「大学の数が多すぎるから助成金が名前も聞いたことないような無名大学に流れているのが問題だ。大学の数を減らせば解決する!」という意見がしばしば聞かれます。

一見正しい意見の様に聞こえますが、そうとも言い切れません。

むしろ、大学の淘汰によって選択肢が狭まると、残った大学がカルテルよろしく、足並みを揃えて学費を値上げし続けるような現象が起きる可能性すらあるように感じます。

 

私学助成は既に有名私大が半ば独占

私学事業団によれば、平成30年度の大学への私立大学等経常費補助金の総額は 2,960 億 3,143 万 5 千円となっています。これを交付対象の571校で割ると一校あたりの交付額は 5 億 1,844万 4 千円になります。

しかし、どの大学も一律でこの金額をもらえるわけではありません。実際の交付額については、教職員数、研究内容、待遇などによって大きく変動があります。例えば、トップの早稲田大学は97億3,072万円も交付されているのに対し、最下位の八州学園大学では838万円に留まります

具体的には、学校別交付額一覧(大学)の通りとなっていますが、上位10校の交付額合計が574億円で全体の約20%、上位30校で1,131億円で約40%、上位50校で1,459億円の約50%と少数の学校が多額の交付金を受けている状況にあります。上位50校くらいまでは、ほとんどの方が無名とは言わないような大学ばかりではないでしょうか。

もちろん、学生数が多いため経費が掛かるという事もあるのですが、国からの補助金の絶対額は、既に有名私大によって独占状態にあると言えるわけです。したがって、無名大学が減っても、これらはもともと補助額が少ないため、有名私大の補助金額が劇的に増えることはありません。

そもそもの支給額が少なすぎる

私学助成はもともと経常費の5割を補助することを目標に導入された制度ですが、経費が右肩上がりなのに補助額は横ばいのため、私学助成の補助割合は1割を切っています。

私立大学の経常的経費総額と私学助成の推移

(文部科学省:私立大学等の振興に関する検討会議資料より)

費用は増えてるのに頼りになるはずの私学助成の占める割合がどんどん減っており、これが学費の値上げに転嫁されているという状況です。つまり、日本では高等教育費用については、公的負担ではなく、家計負担の比重が高くなり続けてきた経緯があり、今後もそれに拍車がかかることが予想されるわけです。

 

まとめ

さっくり書くはずでしたが、思いのほか長くなってしまいました。

こういう記事を書くと「大学教職員の人件費が高いから学費も相応に高くなっているんだから、人件費を下げろ!」という意見が出るかと思います。至極もっともな感情かと思います。

でもそれは、金融業界の人は給与高いから下げろ!と言ってるのと同じで、大学関係者の給料が高いのは、構造的理由(比較的高い参入障壁、高度に確立された業務形態、社会インフラetc)によるものです。

もちろん、公的援助がある分、いわゆるステークホルダーへの理解を得ることも必要ですが、その公的援助の依存度が減り続けている現状では、こうした声も響きにくくなっているのかもしれませんね。

 

高等教育の無償化とも無縁の中流家庭にあっては、ますます厳しくなることが予想される将来に向けて、しっかりと資金計画を立てていく必要がありそうです。

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