文科省の汚職事件の渦中にある東京医科大学で、またもや不祥事案件が報道されていました。
今度は、遅くとも2010年頃から、女子入学者の入試点数にマイナスの係数をかけて、女子の入学者を抑制していたということです。
(東京医科大学 女子の合格抑制 一律減点、男子に加点も 毎日新聞記事へのリンク)
今回はこれについて考えてみます。
中堅以下の大学からみると正直羨ましい…
倫理的な話は次に置くとして、女子学生の入学を抑制できる、というのが東京医科大学が如何に大学ヒラエルキーにおいて高い位置にあるかを物語っていると言えます。
昨今、大学では女子学生の獲得に必死です。
女子学生は、現在のところ4年制大学の進学率で男子にやや劣る水準にあり-短期大学を含めた進学率では女子学生の方が高い水準にあります-、今後の伸びしろが大きいという数値的な意味もあるのですが、それ以上に大きいのが女子学生の特性です。
私の所属する大学だけかもしれませんが、大学で各種アンケートを分析してみると、男子学生は不満があった場合に大学批判に走りやすい傾向があるのに対し、女子学生は他の良い点を見つける、現状肯定の傾向が高いという結果が出ています。これは退学率、4年卒業率などの男女差にも現れており、女子学生の方が圧倒的に男子学生より数値面でパフォーマンスが優れています。
もちろん大学としては不満や批判は真摯に受け止めて改善を行うべきではあるのですが、満足感を持った学生が多ければ多いほど、大学の社会的評価は高まります。商売として、より満足していただける顧客にサービスを購入してもらえるのに越したことはありません。
それに加えて、一般論ですが、女子学生は男子学生に比べて真面目に学業に取り組み、教職員に従順であり、暴力沙汰などの問題は滅多に起こさない、極めて善良な学生です。もっと言えば、男子学生は女子学生が多ければそれだけで入学してくると思っている教職員も多くおり、女子学生が増えれば増えるほど、学内は平和になり、入試の競争倍率も高まって良いことだらけ、と考えている節があります。
こうした見解は極めて差別的なため大っぴらには言う事はないと思いますが、大学関係者、特に上層部などの”数字だけ”を見ている幹部達は、このような考えを持っている方は多いのではないでしょうか。
したがって、特に熾烈な大学間競争にある中堅以下の私大にとって、女子学生の獲得は至上命題であり、あの手この手で女子学生を獲得するのに必死です。みなさんも自分の大学-女子大は除きます-の公式HPを確認してみてください。ほぼ確実に、実際の男女比率と広報上で露出している学生の男女比率は、かなりいびつな形で”逆転”しているはずです。広報的に、同性が出ていれば訴求しやすいという根拠は特にないそうなのですが、他に効果的な手段も思いつかず、私の所属する大学の広報もそのような状況になっていると聞いたことがあります。
このような状況にある中堅以下の私大からみれば、意図的に女子学生の入学者を抑制できる、というのが如何に殿様的な対応なのかご理解いただけるのではないかと思います。
東京医科大学の女子冷遇は非合理的で弁解の余地は無さそう?
さて、ここからはそういった込み入った事情は置いておいて、こうした男女の調整が”正義”であるかどうか、というお話です。
まず大前提として、日本国憲法では以下のように性別による差別を禁止しています。
第十四条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
以前、九州大学が入試で女子枠を作ろうとして、学者にこの憲法に違反する可能性を指摘されて撤廃したケースは業界では有名です。
もちろん、憲法は基本的に公権力と私人の間を規律するものですので、全ての場面で適用されものではありません。民間企業たる私立大学では、経営方針などによって、合理的な理由でこれを調整することは問題ないとされることが多いようです。大阪電気通信大学が女子学生の一律加点を行うことを入試要項に明記したことは話題になりました(女子受験生にアドバンテージ 大阪電通大 入試制度に賛否 産経新聞ニュース)が、制度の撤回には至ってはいないようです。(現在の入試要項を確認する限り、その明記は無くなっています。加点が無くなったかどうかは不明)
九州大学は国立大学ですので、憲法14条に違反する可能性があるとして制度が撤廃されましたが、東京医科大学は私立大学ですので、合理的な理由であれば、大阪電気通信大学のように、議論はあれど、問題はないとされるかもしれません。大阪電気通信大学では、「女子学生の理工系に興味を持ってもらうため」という説明であったようですが、もっともらしい理由をつけるなら、アファーマティブ・アクション(社会的に弱者の立場に置かれている方の現状を改善するための措置)の一環として、の方がよかったのかもしれません。
さて、今回の東京医科大学の女子学生抑制の理由について、記事中では以下のように記載されています。
同大のOBは「入試の得点は女子の方が高い傾向があり、点数順に合格させたら女子大になってしまう」とした上で「女性は大学卒業後に医師になっても、妊娠や出産で離職する率が高い。女性が働くインフラが十分ではない状況で、仕方のない措置だった」と話した。
私は大学は機会の提供が本分だと思っているので、その後の進路について責任も何もないと思っているのですが、建前としては、卒業or退学後の進路までは、寄り添っていくべきだと話すと思います。しかし、卒業後はさすがに面倒見切れない、というか、そこまでコントロールできるはずがありません。
出産後はどれだけキャリアウーマンでも、家庭を重視するようになりがちというニュースを見たこともあります。個人の価値観は変化していきますし、どのようなキャリアが良いかという正解もありませんので、女性医師の離職率の高さを理由に入学者を抑制するのは、合理的とは言えないというか、的外れな印象を受けます。
むしろ、こうした発言は大学ではなく、医師会とかもっと他の関係団体からの意見によるもののような気がしていて、卒業者の多くが医療業界という特定の業界に行く性質上、こうした圧力に負けた結果なのではないかと思います。医師一人育てるのに数千万円の税金がかかっている、という話を聞いたこともありますし、そんな風に手塩にかけて育てた医師が、数年で「辞めます」では割に合わないという感情が起きるのは、理解できなくもありませんが…。
そして、今回のケースでは上述のアファーマティブ・アクションの逆をいっているという点でも、合理性に乏しいと言わざるを得ません。これがまだ女子学生の加点なら対面は保てたかもしれませんが、記事のような理由も相まって、極めて不合理な措置であるとという批判は免れ得ないでしょう。文科省の汚職問題は別にこのケースだけを考えても、少々問題があると言わざるを得ないでしょうね。
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