新卒にせよ、転職にせよ、私大職員への就職を希望するなら、ある程度の業界研究や職種研究はされるかと思います。とは言え私が就職した際には「大学の時窓口でお世話になった職員さんがおり、学生を支える仕事に魅力を感じた」レベルの志望動機だったので、正直なところ、知識はそれほど要求されていないかもしれません。
ですが、転職組なら社会人としてある程度知識を学ぶ姿勢も求められるてしょうし、「お、こいつ知っているな」というアドバンテージになるかもしれませんので、一通り列挙しておきます。かなりマイナー(大学職員でも知らない)なものもあると思うので、ご参考までに!
★の数が多いほど重要度(認知度)が高い情報 ※筆者の価値観
18歳人口の減少 ★★★★★
#関連ワード 「2018年問題」「2023年問題」「進学率」「留学生30万人計画」「生涯学習」etc
これは流石に知らないとまずい情報です。
海外の大学と違い、日本の大学の入学者は、高校卒業後(浪人含む)すぐに進学する方がほとんどなのが特徴で、大学需要は高校卒業時の年齢の人口=18歳人口に強く依存します。そしてこの18歳人口は、少なくともいまから18年後まではかなり正確に予測できます。(日本は死亡率が低いので)
少し古くなりますが、「18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移」(内閣府)をご覧になれば一目瞭然で、団塊の世代以降、長期減少傾向にあることが分かります。
ここ最近減少は一服していて120万人程度で推移していましたが、2018年を境に再び減少をはじめ、わずか4年で112万人まで減少することが予測されています。この踊り場からの急減を大学業界では2018年問題と呼び、危機感をもって対策をしているわけです。今年はまさにホットなワードなので、試験問題や面接でも聞かれるかもしれませんね。
8万人の減少は、進学率が55%程度のまま推移するとすると、44,000人程度の入学者が減少することを意味します。1,000人規模の中規模大学なら40校程度、200人規模の小さな大学なら200校もの大学が消える計算になります。私立大学は600校ほどなので、そのインパクトは伝わるかと思います。
もちろん、進学率が上昇すればこの通りにはいかないでしょうが、大学は斜陽産業であることを理解しておく必要はあると思います。
ちなみに、面接や志望動機などで問われた際、これらの対策として「働く世代やシニア層、留学生を増やす」という案をあげる方が多いと思いますが、個人的にはあまり高い評価をしません。これらは正論ではあるのですが、現実味が薄いからです。働く世代は社会構造が変わらなければ学びなおしすることは難しいですし、シニア層は正規学生でというより、社会人聴講生として、「週に1回、この授業だけ学びたい」というニーズの方が多いです。
留学生を増やすには英語による科目を増やすことが必須ですが、日本人学生も英語による授業を必須化するくらいの抜本的な改革をしないとコスト面で難しいと思います。上位の大学ならまだしも、我々のような中堅以下の大学でこれを提案されても、「正直無理なんだよね…」という思いが巡ってしまうでしょう。
これらの層はブルーオーシャンなので開拓できればその大学の将来は明るいでしょうが、みんな分かっているけどうまくいってないのが現実なので、それを踏まえつつ、他大学との競争優位性を築く提案をする方が良いのかなと、個人的に思います。
アクティブラーニング ★★★
#関連ワード 「PBL」「反転授業」「ラーニングコモンス」etc
直訳すれば能動的学習となるでしょうか。大学の授業は大教室で教員が一方的に講義をするのがステレオタイプなイメージかもしれませんが、現在は学生の主体性を引き出すような授業方法が推奨され、多くの大学がこれの普及に取り組んでいます。こうした授業などの総称をアクティブラーニングと呼んでいます。
ただ、アクティブラーニングの明確な定義はなく、大学によって考え方は様々です。PBL(学生にテーマや課題を与え、それの解決策などを考えさせる)や、反転学習(あらかじめ授業内容を動画で予習して課題をこなし、授業ではその解答を教員が学生と議論する)といった本格的なものから、グループワークやディスカッション、下手するとコメントシートでさえ「能動的な行為」としてアクティブラーニングに含める場合もあります。
いずれにせよ、背景にあるのは知識詰め込み型の学習からの脱却で、考える力を伸ばしたいという国の方針に沿っています。
大学の機能別分化 ★★
#関連ワード 「COC(+)」「SGU」「地方創生」「L型/G型」etc
少し古いですが、H.17年に中央教育審議会の「我が国の高等教育の将来像(答申)」で、激化する大学間競争を見据えて、各大学はその主な役割(機能)を分化させ経営資源を集中させていくべき、という方針が出されました。これが大学の機能別分化で、以下のような機能が挙げられています。
- 世界的研究・教育拠点
- 高度専門職業人養成
- 幅広い職業人養成
- 総合的教養教育
- 特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育・研究
- 地域の生涯学習機会の拠点
- 社会貢献機能(地域貢献、産学官連携、国際交流等)
これらは複数であることもあるし、同じであってもそのバランスは異なるので、各大学の事情に合わせて大学のカラーを作ってくださいね、ということなのですが、ご覧のとおり、特徴のない大学は教養教育を担うか、地域に根差した大学となるくらいしか選択肢がありません。
1.なんて指定国立大学くらいしか難しそうですし、2.は医療系(医・薬・看護)など、5.は記載の通り体育大学や芸術大学などかなり限定されていて、目指しようがありません。したがって、普通の総合大学・文系大学などは3,4,6,7を目指すほかないのです。というより、国もそれをわかっています。
その例がCOC(+)で、これは地域とともに地域の課題を解決して発展に繋げていく取り組みを行う大学を指定する、というもので、Center of Community、地(知)の拠点と呼んでいます。
私学といえど、やはり国の方針は意識せざるを得ません。単に補助金欲しさに申請している大学もあるかもしれませんが、COCに申請するということは、この機能別分化で地域貢献に重点を置くことを宣言すると同義なので、指定大学の面接や課題で「都心移転」などをあげるのは得策ではないとうことです。
IR ★★★
#関連ワード 「退学防止」「エンロールマネジメント」「学生カルテ」「アダプティラーニング」etc
統合型リゾートでも、投資家情報でもありません。
大学業界でIRといえば、Institutional Researchの略で、簡単に言えばデータに基づいた教育・経営をしていきましょう、ということです。アメリカの大学で広く浸透している概念で、日本でも導入が広がっています。
一般企業の人からすると「は?逆にデータに基づかずにどうやってやってたの?」となるでしょうが、大学の特に教育は、経験知と個人の裁量でやってきたのが実情です。授業の内容は教員に委ねられていますし、それに口出すことはご法度とされています。
この辺は教育の自由との関連があり、根強い抵抗はあるのですが、大学間競争が激しくなってきた昨今では、特に退学率の低減のために退学者の傾向を調査・分析して、授業方法やカリキュラム、学生のサポート方法を工夫する取り組みが広がっています。
他にもいわゆる不本意学生を減らすための広報や入試の仕組み、所属する学部やクラブ・生活環境といった違いに応じた学生生活支援や、学んだことを活かせる就職先の紹介などがありますが、学生個々の事情(データ)に応じたきめ細やかな支援をしていこう、という理解で十分です。というより、大学でもIRはマジックワード化していて、みんなIRは大事だよねというものの良く分かっていません。
教育の可視化 ★
#関連ワード 「シラバス」「ルーブリック」「ナンバリング」「アセスメント」「GPA」「教育の質保証」etc
★一つですが、個人的にはかなり重要な項目だと思っています。就職時に知っておく必要はあまりないかもしれませんが、現役なら知っておいた方がいい内容です。
IRの説明でも触れましたが、教育というのは教員の裁量が大きく、その内容や評価方法などは完全にブラックボックスでした。でも、みなさんも学生の頃に「なんであの答案で可(C)しかないんだ」「なんで単位を落としたか理由が分からない」「どの科目をとったらいいか分からない」などといった不満をもったことはないでしょうか。
こうした状況を改善するために、海外、特にアメリカの大学では教育の可視化が進んでいます。具体的には以下のようなものがあります。
ルーブリック
成績の評価基準を示したマトリクスのこと。
※例 情報の授業の基準の一部
4 | 3 | 2 | 1 | |
タイピング | 10分で1000字~ | 10分で~750字 | 10分で~500字 | 10分で250字以下 |
エクセル | ネストが使える | 高度な関数が使える | 単独の関数が使える | 関数が使えない |
例えば、タイピング速度を図る場合は、10分で1000字以上であれば最高評価の4がもらえ、エクセル技能であれば関数が使えなければ最低の評価1しかもらえない、といったイメージです。
あくまで例なのでこの評価基準が妥当かどうかはご容赦いただきたいのですが(笑)、こうしてあらかじめ学生に成績評価の基準を示すことで、成績付与時は自らの評価の理由が分かりますし、どこをどう伸ばせばよいかがわかるので、学習目標にもなるわけです。
ナンバリング
科目の種類、難易度を示した英数字の組み合わせのこと。
※例 英語の場合
ENG1000 ENG2000…
科目のナンバリングはアメリカでは当たり前で、日本でもだいぶ広がってきましたが、まだまだです。そしてナンバリングは明確なルールがないので、各大学固有のものが出来上がって、逆に分かりにくくなっているケースもあります。
最もシンプルなのは上記のようなものではないでしょうか。アメリカでもよく見られるパターンです。頭文字のアルファベットは科目の種類、ここではEnglishのENGとなっています。これで、この科目は英語だとわかる訳です。
次に1000、2000といった4桁の数字が続きますが、これは推奨する学年やレベルを示すことが多いです。つまり、1000番台の科目は1年生や基礎科目、2000、3000となると中学年や中級科目、4000番となると研究科目、といったイメージです。
100の位、10の位、1の位は各大学によって扱い方がことなると思いますが、100の位は種別、例えばグループワーク中心の科目は1、講義中心の科目は2といった決め方をしたりすることが考えられます。科目の種類の関係上、10の位と1の位は連番で意味のない場合もありそうです。
他にも、ナンバリングの最後にその科目の使用言語、上記でいえば、ENG1000Jとつけて日本で行う英語の授業としたり、科目を提供する学部の頭文字を使う場合などがあります。
アセスメント
学生の就学状況を確認すること。
近年、社会から教育の質保証が求められており、教育への評価が「教員がちゃんと教えている」から「学生がちゃんと身につけている」へシフトしています。
これまで大学では学生の評価は期末や中間テストのみ、成績は可(C)以上ならOKという感じだったのですが、最近は課題の頻度を高くしたり、GPAが一定以下だと卒業できない、といった基準を設ける大学も出てきました。
英語などの語学科目などは、アセスメントで計った習熟度によってクラスを分けるのはもはや一般的ですし、IRの重要な基礎となる情報です。
大学入試改革 ★★★
時事問題としてしっておくべきテーマです。
みなさんは大学受験時、センター試験を受けたことがある世代が多いと思いますが、これがオリンピックイヤーの2020年で廃止され、代わりに大学入学共通テストが導入されます。
名前だけ見ると昔の共通一次に戻った感がありますが、変更の理由は知識偏重型のテストから、知識の活用力・考える力を評価するテストへのシフトです。具体的には、記述式問題の新設、英語科目の4技能(読む・聞く・話す・書く)を評価する、などこれまでのセンター試験になかった要素が追加されています。
他にも、テスト1回で将来が決まるのはよくないとして、高校生のうちから「高校生のための学びの基礎診断」というものも導入され、複数回にわたっていわゆるアセスメントをする方針も決まっています。
これに合わせて、大学の入試問題も大きく変わらざるを得なくなっています。順天堂大学医学部の試験で、コートの男の写真をみて感じたことを書かせるという問題を出したのは話題になりましたが、こうした問題が増えてくることが予想されます。
これは、知識があれば解ける問題ではありません。こうした考える力、表現力が必要となる試験を導入することは、それとともに教育内容を変えざるを得ないため、これからの大学の大きな課題になっています。もっとも、それこそが文科省の狙いと言えるでしょう。
その他時事的テーマ ★
その他、時事的なテーマは押さえておくとよいでしょう。最近でいえば、定員の厳格化、高等教育の無償化、就職協定の撤廃などはホットですし、日本大学で問題となったハラスメント対策なども目を通しておくといいと思います。
以上つらつらと書いてみましたが、上記キーワードに自分なりの考えを言えるようにしておけば、よほど変化球が来ない限り、面接や筆記でつまずくことはまずないと思います。私大職員を目指す方の参考になれば幸いです。
初めまして、コメント失礼します。現在大学職員を志している29歳の男性です。大学職員について相談をしたいです。よろしければメールをいただけると幸いです。よろしくお願いします。