コロナの国難でも大学の学費の返還が難しい理由

一部のニュース等で取り上げられるだけだった学費の返還運動についてですが、私の所属する大学でも最近は多くの問い合わせがあるようです。個人的には、今後大きな問題に発展しそうな気がしています。

確かに、施設使用料という名目で徴収されるならば、多くの大学が春学期のオンライン授業化を決定している昨今、不平不満が生じるのは致し方ないのかもしれません。いくら休校ではないと言い張っていても、通常通りの授業を提供できているかといえば勿論NO!で、学生の皆様には大きな負担がかかっています。とはいえ、大学もすぐに「じゃあ返します」と言えない環境にはあるわけです。今回はこの辺りについて見解を書いてみたいと思います。

 

施設使用料に明確な根拠はない

非常に誤解を招きやすいので、最初に説明させていただきます。

例えばとある大学で、授業料40万円、施設使用料10万円を設定していたとします。

一般的な解釈では、施設の維持整備等にかかる費用から逆算して10万円を設定していると思いがちですが、まったくそんなことはありません。むしろ、施設使用料の根拠はほぼ無いに等しいといって過言ではありません。

なぜなら、大学では学生等納付金(授業料+施設使用料+α)を全てひっくるめて「学費」と考えていて、お金の色付けは行っていないからです。

 

これは、大学の施設等に支出する費用に、年度による差が激しいことが理由にあげられます。

新棟の建設、キャンパスの大規模修繕、基幹システムの更新など、莫大な費用が発生する年度はありますが、だからといってそれを当該年度に在籍する学生にのみ負担を求めるわけにはいきません(新棟建てるから、今年は学費2倍ね!と言われたら困りますよね…)。

大学の維持発展のためは、修繕だけでなく投資も必要になります。そのため、その中で将来に向けた資産管理を行い、平準化した費用の中でやりくりしていくことが求めらます。ということで、年度により施設使用料に差があることは致し方ないことです。

しかしここで、大学の収支均衡という考え方がネックになってきます。

 

大学は自転車産業

大学は業界の構造的に「自転車操業」です。これは、その年度にもらった学費は効果的(つまり余分に貯金などしないで、その年に教育研究に)に使うことが求められ、利益を出すことよりも、最大限の教育効果を出しながらの「収支均衡」が求められているからです。

つまり、この年は学生が多かったからお金を貯めておいて来年使おう(計画的な貯蓄は認められています)とか、今年は収入が少なかったから控えめにしようといった考え方が出来ないのです。常に、その年の学生に対して最大限(将来的な維持発展を含めて)のパフォーマンスを発揮しましょうと、そういう訳です。

そして、私学助成等の公的資金の注入もあることから予算に沿った会計が求められており、当該年度(つまり2020年)の予算は、前年度には確定しています。

 

これらが、学費返還の障壁になっています。

私立大学にとって根幹収入である学費(ここでは色分けせずに考えます)は、ある程度の振れ幅はあれど、徴収ありきで予算が建てられています。これが例え数%でも全体から減額されるならば、いくら支出が減ったとしても、その分をどのように工面するかといえば、キャッシュリッチな大学以外、正直、人件費を削る他無いわけです。

確かに対面授業を行わないことで削減できている費用はありますが、逆に想定されていない費用も発生しています。現段階では、その差し引きがどの程度になるかは想像もできません。そして何より、大学の最も大きな支出である人件費は、この間休業していない以上、通常通り発生しています。

学費返還を求める人たちの主張は、意識的にせよそうでないにせよ「教職員の給与を削って学生に還元せよ」という主張に他なりません。

これに対し、通常よりも負担多く働いている教職員は、やむを得ないと思いつつも、やるせない気持ちになっていしるように思います。私の所属する大学でも、教務や学生部門、総務系は本当に大変そうです…。

 

チキンレースの果てに

大学教職員は、一般的な会社員に比べて高給取りであることは確かです。

したがって、こういった時に(特に半官半民である以上)痛みを強いられやすい職種と言えるかもしれません。

 

現在はどの大学も学費は通常通り徴収することに理解を求める傾向がありますが、これもチキンレースで、いつどこが学費を返すか、その額はどの程度が戦々恐々として見守っている状況のようです。

(2020年4月23日追記)

その後、明治学院や慶應など「奨学金」として学生に一律お金を支給する動きが出てきました。これはある程度想定された事態です。文部科学省の見解にもあるように、学費の返還はする必要は必ずしも必要ないものの、世論に動かされた形になります。

これまでつらつら書いてきたように、学費の一律返還は特に財政の厳しい私学を中心に経営を直撃し「業界が倒れる」レベルのインパクトがあります。

今回の騒動、一大学職員として、非常に注意深く見守っています。

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