出生数90万人割れの衝撃~大学職員に未来はあるのか?~

厚生労働省によると、2019年の国内出生数は84万4千人で1899年の統計開始以来、初めて90万人を割ったということです。前年に比べて5.92%減という30年ぶりの減少率であり、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計よりも2年早いペースだそうです。

現在の出生数は18年後の18歳人口を意味する訳で、18歳人口に強く依存する大学業界としては非常に重く受け止めていることかと思います。2018年問題で懸念されていたパイの減少が約115万人→約105万人であることを考えると、18年後にはそこから更に2割も減っている…という危機的状況が伺えます。そんな大学業界、これから就職(特に新卒で)入るに値するのかどうか、考えてみたいと思います。

 

高等教育無償化で延命はされたけれど…

ご存知の通り、2020年から始まるいわゆる「高等教育の無償化」政策によって住民税非課税世帯を中心に大学教育にかかる費用が事実上無償化されます。これによる恩恵は大きく、ざっくり全学生の2割が支給額は違えど支援を受ける計算になるようです。

こうした支援による進学者数増の影響は大きく、2020年度ですら約6万人以上の進学者増が見込まれるようです。これによって、大学業界は2018年問題で減少する人口(大学志願者)の約6万人減をなかったものにできると考えられています。

気になるニュース:大学無償化(減額)が年収380万円未満世帯へ

2018年問題は2021年に2回目の急減を迎え(これを2021年問題という人もいます)、2024年を底に一旦上昇して、その後2029年頃まで横ばいに転じます。この間の18歳人口の減少数は約10万人で、2018年から2029年までの進学率の緩やかな上昇(2%程度、約2万人の増)を加味すれば、大学淘汰の波が10年先送りされと考えてよいと思います。

 

18歳人口と大学進学率の推計(文部科学省資料より)

ただし、そこから先は危機的状況が待ち構えています。

2016年に出生数が100万人を切ったのを皮切りに、わずか3年で90万人を切るという異例のスピードで少子化が進んでおり、2018年問題とは比較にならないレベルで大学需要の減少が予想されます。上記のグラフは今回の急減を織り込んでいませんので、実際は2038年頃には赤枠で囲まれた2040年の数よりも2万人低い数になることが確定しました。

つまるところ2035年から2038年の4年で15万人規模の急激な18歳人口の減少が予想されているわけで、これはわーわー騒がれていた2018年問題の10年で10万人減をはるかに上回るインパクトであることが分かります。この間の進学率の上昇は1%にも満たないと予想されており、数千人の増加ではもはやカバーしきれません。大学無償化の拡大という奥の手があるかもしれませんが、日本経済の将来を考えると更なる増税を前提とする高等教育への予算配分は難しいように感じます。

ということで、現在新卒で大学職員を目指されている方にとっては、40歳で倒産・リストラの可能性があるという事実を認識しておく必要があるのかと思います。

はっきりいって、大学業界は斜陽業界です(正直日本のほとんどの業界がそうだと思いますので、まだマシという意見もあるかもしれません…)。どんな大学でも安心とはまかり間違っても言えない状況なのは理解すべきです。

 

それでも大学職員を目指したいというあなたに

こうした暗い未来が予想されている大学業界ですが、希望が無いわけではありません。

 

例えば、TOYOTAが終身雇用制の限界を訴えて話題になった日本型雇用が完全に終焉することによって、欧米の様に新卒一括採用が一般的でなくなれば、セカンドキャリアを目指すための場として、また「ある程度履歴書に書ける信頼性のある空白期間」として18歳以上の人口が大学で学ぶ未来も予想できるところです。

学生にとっては不幸なことかもしれませんが、奨学金によって学業を続ける制度は整っており、「お金がなくても」学べる状況ではある訳で、商売として大学を運営するならば、こうした層を積極的に取り込む将来も考えられなくもありません。

また、いくら需要が減っても高等教育自体の需要は消えないと思います。AIだなんだとテクノロジーが進歩しても、人対人の教育に価値を感じる層(少なくとも現在の教育制度で教育されるここ10年~の子どもが親になる世代)にとって、少々値が張っても大学へ進学させる人が多くなると予想します。玩具業界が子どもの数が減っても一定の市場を維持しているのと同じように、教育費の総枠はあまり変わらない(むしろ増えている気もします)と考えますので、一人当たりにかける教育費も増加していくでしょう。

つまり、淘汰を生き延びた大学が授業料を大幅に値上げしていくことで、その採算をとるようになるということです。これが、不要(と多くの国民が考える)な大学が淘汰された結末であると考えます。

 

という訳で、弱小の大学にとっては人口減の荒波に飲まれ終わってしまうでしょうが、それを乗り越え生き残った大学は、かなり強い立場を誇示できるようになると、何となくイメージしています。大学の大衆化が叫ばれて久しいですが、この学費の値上げと雇用の流動性が高まることで、必ずしも大学へ進学することが18歳の主要な選択肢にならない可能性すら出てきます。

そうなると、大学は再びエリート段階(限られた人だけが行く)に逆戻りする、なんてこともありえそうです。

 

もし、新卒~30前半で大学職員を目指されたいという方は、こうした将来感をもって「生き残りそうな大学」にアプローチすることを強くお勧めします。

生き残りの過程には2段階あると思っていて、1段階目はこの2038年以降の急減に耐えうるかどうかです。そのポイントとなるのはレガシー、簡単に言えば歴史ある・高偏差値・大規模大学です。

 

第一段階の淘汰ー小規模・新設校ー

大学というのは、想像以上にレガシーが重要視されます。偏差値が高く、歴史があり、社会に多くの卒業生を輩出している大学はそれだけで一目置かれ、その大学出身者を「特別な人」として一歩上のステータスに引き上げる効果があります。誤解を恐れずに言えば、それが一般的学生の大学から得る対価の大部分であり、大学として提供できる最大の価値であるとも思います。

一般的な会社では、新しい破壊的技術を持った会社が老舗を蹂躙することはよく見られる光景ですが、少なくとも大学業界ではそれは当てはまりません。なぜなら、教育手法の模倣は容易でも、教育ブランドを上塗りすることは難しいからです。そしてそのブランドを卒業生が補強している(上位大学ほど帰属意識が高いです)分、簡単に埋めることができない鉄壁の守りになっていると思います。昨今の上位大学から中堅大学への志願者の流れが見事に受験難度に沿っているのが、その一例です。大学の序列は長い年月をかけて築き上げられてきた深い堀のようなもので、やすやすと飛び越えることはできないのです。

30代後半から40代以上で大学職員をキャリアの終着点として考えられる方は、こうした視点での大学選びが重要になると思います。

 

第二段階の淘汰ー無研究力・モデル転換が難しそうな大学ー

新卒で定年まで大学職員を続けたいという方は、生き残りの第2段階、シンギュラリティ(2045年)以降の大学を無理やりイメージしてみることが必要かもしれません。

技術革新で知識や技術の習得という点でいえば、教育は人対人で行うものではなくなっていく未来を予想しているので、大学の価値はそこに集う人とのサロン的要素と、最新の研究に触れ、自ら身を投じることができるエンタテイメント的要素が大きくなってくると思います。古き良き大学に回帰していくという訳です。

また、AIの進歩によって単純労働が消滅し、ベーシックインカムのような制度が普及すれば、働くことが必ずしも必要でない未来がやってくるかもしれません。そうなると、規模や歴史はあっても「教育力」や「就職率」で勝負することは厳しいと思います。端的に言えば、研究成果の出せない大学は厳しく、現在の日本でいえば指定国立大や一部の私立大学くらいしか、先が見通せる大学はありません。

ただ、中位校以下にもサロン・エンタテイメント的要素を提供するモデルへの転換可能性は勿論残っていて、既にアメリカのミネルバ大学のように、教育をある意味サブ的な位置づけにしたモデルも出始めていますので、決して悲観しすぎる必要はないように思います。

現在は付け焼刃に「就職に強い大学」や「学生を育てる大学」を謳っていても、中規模校以上であればこうした変化に対応できる体力はあるので、「自分たちが大学業界を変えていく」という志をもった人であれば、淘汰に打ち勝つためのチャレンジングな仕事になるのではないでしょうか。

 

まとめ

という訳で、就職先としての大学選びは、現在の年齢によって基準が変わってきますよ、という至極当たり前の結論となってしまいました。

大学業界全体の未来は中期的には暗いですが、個々の大学でみると決して悲観一辺倒ではないなと思うのが、一大学職員の意見です。決してなくなりはしない業種であるとも思いますしね。

 

私が仮に同年代以下の友人にアドバイスを求められたら、以下記事のような収容定員4000人以上の大学や、その地域(都道府県)の中核的大学(地域の教育機会均等のため潰しにくい)に絞って就職活動を行うことを勧めると思います。このレベルであれば経営的にも安定しており、人によってはそのままゆるーく定年を迎えられると思いますし、そうでなくとも生き残りのための施策を行う体力がある分、その他多くの中小大学よりも有利です。

私大職員を目指すなら収容定員4,000人以上の大学にいくべき説

そして特に新卒の方に限って言えば、将来大きな変革が要求され、現在のような前例踏襲のルーチンで楽な仕事というイメージではなくなっているかもよ、と進言するでしょう。勿論、大学選びさえ間違わなければ2040年頃まではある程度なぁなぁでやっていける気もしていますが、その後の急減のインパクトと変革にはある程度覚悟を持っていないと耐えきれない(本人の経験・能力的にも経営的にも)ように思います。40歳になって急に人は変われませんからね。

以上、参考になれば幸いです!

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