喫煙者は大学に入れない時代がやってくる?

少し前になりますが、改正健康増進法が成立し、2020年4月に全面的に施行されることとなりました。努力義務だった禁煙場所での喫煙に罰則が課せられたり、公的機関での敷地内禁煙化などが柱です。興味のない方や、非喫煙者の方からすれば、「タバコが吸える場所が減るんでしょ、いいじゃん」くらいの認識だと思いますが、JTの株主として、また、この法律によって大学も公的機関の一つとして受動喫煙の防止が義務付けられることから、普通の人よりは関心があり、また意見も持っている方です。

今回はこの件に合わせて、大学のタバコ事情について書いてみたいと思います。

 

 

タバコを吸う人は減っているけれど…

いうまでもなく、大学は多種多様な人が集うため、一定の喫煙者が存在します。そしてそのすべての人がマナー良く吸うかと言われると、決してそうではありません。

我々の大学では、毎年アンケートを実施して、喫煙者数について調査していますが、その数は長期漸減傾向にあり、割合でいうと10%程度(学生全体を母数)といったところです。厚生労働省によると、2018年の20代喫煙率は男性23.3%女性6.6%とのことです。大学のおよそ半数は未成年なので、母数を20歳以上の学生数にすれば、割合は20%を超えてくるでしょうが、吸う人は入学直後から吸ってますし、個人的には、全国的な平均よりもやや低いのかなと感じています。(最新たばこ情報-成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査) より)

このように、相対的に喫煙者が少なめで、年々その数も減っているにも関わらず、同アンケートの自由記述欄では、毎年、受動喫煙に対するクレームが大半を占めています。これは、受動喫煙の範囲が極めて広く、一人の違反者による被害が広範囲に及ぶことが原因の一つと考えられます。日本禁煙学会によれば、受動喫煙を防止するには、無風状態ですら直径14mは必要で、実際は屋外で無風が続くことはありませんから、テニスコート2面ほどの敷地が必要になるそうです。(屋外における受動喫煙防止に関する日本禁煙学会の見解と提言 より)

 

また、一昔前ならこうした受動喫煙も、しょうがないという風潮があったと思います。昔のテレビや本では、タバコを吸っているシーンってホント多いですもんね。しかし、度重なる啓発活動や、嫌煙権などの考え方も出てきて、周りの目が相当厳しくなってきました。

こうして数は減れども、その影響の大きさと、それに対して敏感になった人が増えたことで、喫煙問題がより表面化しているのが現在の状況です。

 

大学職員にとって喫煙問題は悩みのタネ

そしてこの、喫煙場所以外での喫煙は、大学職員を常に悩ませる問題です。

どんなに対策したり、注意喚起を行っても、吸う人は吸います。我々の大学では、定期的に職員が見回りをすることがありますが、その時は「すみません」と口で言ってはいても、結局はその時だけで、彼らが喫煙場所以外での喫煙をやめることはほぼありません。

我々職員もそのことはわかっていて、イタチごっこなことは理解しています。こうした見回りは、その他大勢の学生に対して、我々も対策はやってるんだよ、というアピールのために実施しているというのが正直なところです。

じゃあ、敷地内全面禁煙化すればいいじゃないか、という意見も出るかと思いますが、全面禁煙とした多くの大学で、大学近隣での喫煙が増加し、近隣住民からクレームが増加しているそうで、中には急遽喫煙所を設置した、という話も聞きます。

また、クレームを言う学生の中には、罰則を望む学生も多いのですが、自由さが売りの大学では罰則付きの校則を作ることに抵抗があったり、そもそも罰則の根拠が定められていないので、難しい状況です。大学の立地する市町村が条例を定めていれば過料をとることはできるかもしれませんが、行政職員でない私大の職員には、取り締まることもできません。

 

他にも、受動喫煙対策には周りの理解が得られにくいことも問題です。

上で例にあげたように、本気で受動喫煙を防止するならテニスコート2面分のスペースをとった喫煙所を設置しなければなりませんが、そんな余裕は多くの大学にはありません。

また、巷でよく見る喫煙ボックスは、維持費を含めると一基1000万以上することが多く、そんなことに学費を使うな!というお叱りも受けがちです。

すし詰め状態で劣悪な環境だと喫煙者も喫煙所に来てくれませんから、ゆったりとした快適なスペースを作り、喫煙者が来たくなるような仕掛けを施してはどうか、という提案をしたこともありますが、どうして違反者にお金をかけなきゃならんのだ、という主張が出てきて、お金をかけることは難しかったりします。

 

喫煙者は大学受験できなくなる未来がやってくる?

こうした問題を抜本的に解決するために、そもそも喫煙者を排除する、という考え方の大学も増えてきました。

崇城大学薬学部や、北海道薬科大学、愛知きわみ看護短期大学など、入試の募集要項に非喫煙者であること(および入学後も吸わないこと)を掲げる大学は一定数存在します。そもそも、日本の大学受験生は9割くらいが未成年ですし、個人の嗜好を制限する受験制限は、かなり思い切った内容ですよね。

私の大学では、入学時に自動車通学を禁止する誓約書にサインをすることになっていますが、こうした大学ではタバコは吸いません!という誓約書があるようです。自動車の場合は、大学のリスクヘッジ(自動車による通学で重大な事故を引き起こした時、大学としては本人は通学しないと誓約した、と言えます)のためだと思っていますが、タバコの場合はこれを根拠とした罰則が主目的になるかもしれません。

現在は薬や看護など、医療職を志望する人に限定されている感はありますが、私はこうした条件が、一般の大学にも広がっていくんじゃないかと思ってます。

ただでさえ大学は喫煙問題に悩んでいますが、それに追い打ちをかける様に、今回の改正健康増進法があります。違反者だけでなく、受動喫煙防止を行わなかった側も処罰の対象となるので、これまでのなぁなぁの対応では済まなくなってきています。

それだったら、そんなめんどくさい対策をすべてほっぽりだせる非喫煙者だけを選べばいい、という発想です。

 

喫煙者を必要以上に責めるのは逆効果な気もする

こうして世間は喫煙者の肩身が狭い世の中になってきていますが、私は必要以上に喫煙者を虐めるのはよくないと思っています。私も非喫煙者で、歩きタバコには心底腹が立ちますが、きちんとルールを守って喫煙している人には何も思いません。

喫煙は悪だから攻撃してもいいという風潮は、クラス全体でターゲットを決めた“弱い者いじめ”と似たようなものだと思いますし、抑圧された人々は相当ストレスが高まっていくと思います。そんな方があるときストレスが爆発して何かをしだすとも限りません。

少し前に穴見議員の「いい加減にしろよ」発言が話題になりましたが、立場と場所においては不適切でしたが、喫煙者の思いを代弁しているという点では、考慮すべき発言だとも思います。確か、参考人が「屋外喫煙所では受動喫煙をしない工夫が必要で、ゆくゆくは屋外喫煙所自体をなくしてほしい」という主張に対しての発言だったと思いますが、私も後半は少し行きすぎな主張なのかなと思っています。

タバコが終わったら、今度はお酒バッシングでしょうか。

こうしてどんどん、いじめの標的を探しているようで、すこし息苦しく感じます。

吸う人も吸わない人もここちよい世の中へ、はJTのCMメッセージですが、それぞれの嗜好を尊重しつつ、共存できる未来を築いていくべきなのかなぁと思います。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA