本日のYahoo! ニュース記事(時事通信社)によれば、JASSOこと、日本学生支援機構の実施する貸与型奨学金について、現行は「人的保証」と「機関保証」から選択できる保証制度を、「機関保証」へ一本化する方針が出されたそうです。
私も昔、奨学金事務を担当していたことがありますので、この件について思うところを書いていきたいと思います。
日本学生支援機構の奨学金とは
日本学生支援機構は、文部科学省が所管する出先機関で、奨学金をはじめとしたさまざまな支援活動を行っています。最大の事業である奨学金には莫大な費用がかかりますが、その原資はこれまで貸与をした奨学金からの返済金と、不足分(半分以上)は税金から拠出されています。したがって、他の民営化団体よりもかなり国に依存した機関と言えます。
大学生の日本学生支援機構奨学金の利用率は、現在2.6人に一人(JASSOホームページより)とのことで、学生全体の約40%が利用している計算になり、日本で最も利用者が多い奨学金です。もっとも、これは国立大学、短期大学などを含めた数字なので、4年制私大である私の勤め先では50%以上が利用しています。
毎月、希望した一定の金額の貸与を無利息または低利息で受けられるという事で、これに助けられた人は多いと思います。毎月分を貯めて学費にしたり、一人暮らしの家賃に充てたりと使い方は様々ですが、以前私の勤め先で統計をとったところ、利用者は平均して毎月8万程度、年に100万円程度を借り入れしているという結果が出ました。これは年間の学費に相当しており、言い換えれば、私学でも学費の半分は奨学金=税金で支えられている、という風に言うことができるわけです。
二つの保証制度
そんな、多くの方が利用している奨学金ですが、お金を借りる以上、担保となる「信用」が必要になるのは当然。しかもそれが、将来の収入が不確定な学生なら尚更です。ここで出番となるのが、冒頭出てきた「保証制度」です。
日本学生支援機構の奨学金は、現在、両親などの親族による「人的」な保証か、保証会社に一定の保証料を支払うことで保証をしてもらう「機関」の保証のいずれかを選択することで、これを担保しています。要は、いざとなったら返済能力のある学生の「身内」か、しっかりした「会社」に返してもらいます、ということですね。
で、この保証制度は「人的保証」が圧倒的に人気です。なぜなら、「機関保証」にすると、毎月の貸与額から一定の金額(2~3%程度)の保証料が割り引かれるからです。これは「大学卒業後の返済中に焦げ付いた場合は一旦立て替えてあげるから、そのコストを在学中にもらいますね」という考え方です。当然ですが、焦げ付いても保証会社が泣いてくれるわけではなく、一旦立て替えるだけです。今度は保証会社が取り立てて(お堅い日本学生支援機構よりは強力に)きます。
それに対して人的保証では親族の担保によって貸与を受けますので、保証料がありません(個別に話し合っていれば別ですが…)。まるまる貸与を受けれることはもちろん、万一の時も比較的融通が利く親族の方が安心という訳ですね。
手続は人的保証が圧倒的にめんどくさい
奨学金の事務的な手続については、学生が在籍中は、大学が日本学生支援機構と学生の仲介を行うことになっています。その手続きを担当してきた目線で言わせてもらうと、「人的保証」は、「機関保証」に比べて手続きが格段に面倒です。
名前の通り人的な保証なので連帯保証人を選ぶ必要があるのですが、これに最低二人の親族等が必要になります(うろ覚えですが、極めて例外的な事例で第三連帯保証人まで要求されたケースもあったと思います)。
その親族等の二名については、書類への署名・押印はもちろん、返済能力を確認する(実際はほぼ無収入でもなれるのですが)ために収入を証明する書類の提出が必要になってきますので、必然的に手続きが煩雑に、また必要な書類の量が増えます。
少し細かい話になりますが、第一連帯保証人と第二連帯保証人は夫婦ではなれないので、第二連帯保証人はその他の親族に依頼しなければならないのですが、叔父や叔母に頼みにくい家庭では、祖父母に依頼するケースが非常に多いです。ただ、返済能力や返済期間(基本的に20年)を考慮して、いつからか65歳以上の祖父母は原則NG、というお達しが出たことがあります。
ただ、少し考えればわかる通り、大学生ほどの孫がいる祖父母が65歳未満という事は稀で批判が殺到。結局、やむを得ない事情を陳述した書類を提出すればOKとなり、ほとんどの人がこれを提出するという事態になりました。結果、書類といらぬチェックが増えたという訳です。
さらに、悲惨なのがミスしたケースです。チェックすると結構な頻度で書き間違いがあるのですが、その場合、ミスした箇所に応じて本人、第一連帯保証人、第二連帯保証人の訂正印が必要になるケースがあります。両親がなることが多い第一連帯保証人はともかく、叔父や叔母、祖父母などがなることが多い第二連帯保証人は、遠方に住まわれているケースが多々ありますので、修正のやり取りも大変です。
余談ですが、2010年ごろに奨学金を担当した方なら、返還誓約書が事後から事前に提出することに変更された当初、ミスしたケースに応じた修正方法(訂正印の押し方も何通りもあったのです笑)が複雑すぎて愕然とした方も多いと思いますw
このように、学校担当者も学生本人とその家族もめんどくさい人的保証に対し、機関保証の手続きは極めて簡単です。基本的に学生本人の署名だけでOKですし、親族の収入に関する書類なども一切不要。人的補償にはない書類が機関保証をお願いしますみたいな書類で、これは本人と未成年であれば保護者が署名すればOKなぺらもの1枚だけだったはずです。
担当者目線では大歓迎だが学生にとってはどうか
担当者目線で事務手続の観点からみれば、今回の変更は大歓迎だと思います。業務量がかなり削減されることは間違いありません。
一方で、在学中は無利息である奨学金の特徴(第二種奨学金では、返済と同時に利息が発生します)を活かして、不測の事態に備えて貸与を受け、卒業間近に一括返還するという方法がとりにくくなることはマイナスでしょうね。トータルで数百万円を4年間、無利息で借りれるというのはすごいことで、金融リテラシーの高いご家庭など、こうした利用をされる家庭も見受けられました。
これが機関保証になれば、一括返還したとしても、保証料は全額返ってきません(一部返還されるとされていますが、割合は不明)ので、こうした利用に躊躇する人は増えるでしょうね。もっともそれも狙いの一つかもしれませんが…。
日本学生支援機構は大学関係者とかなり密接に関わっていますので、人的保証手続の煩雑さに対する苦言を聞き続けてきたこと、また昨今の大学統廃合の話に関連して大学事務の簡素化に関する文科省からの要求などによって、こうした方針に踏み切ったものと推察します。が、学生目線でいえば、選択肢が減る分マイナスでしかないでしょう。
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